「自動車ローンの利用者は、住宅ローンの審査が厳しくなる」という話を、耳にしたことはありませんか?
自動車ローンに限らず、教育ローンやカードローンなど、多額の債務を借り入れている人は、住宅ローンの審査に影響が出る可能性があります。
では、具体的にどのような影響が出てくるのでしょうか。
その影響を最小限に抑える方法とあわせて、自動車ローン利用者が住宅ローンを借り入れる際のポイントを解説します。
ローンを利用するうえで重要な「返済負担率」
金融機関の住宅ローン審査では、申込者の年収や年齢など、さまざまな観点から「融資しても良い人」を選んでいます。
この中で、自動車ローンなどのほかにも多額の融資を借り入れている人が注意したい審査項目に、「返済負担率」があります。
返済負担率とは、年収に対する年間返済額の割合のことです。
たとえば、年収500万円の人が年間150万円の借金を返済している場合、返済負担率は30%(=150万円÷500万円)になります。
この返済負担率について金融機関では上限を定めており、「一定額以上の借り入れをさせない」ように制限しているのです。
なお、年間返済額には住宅ローンだけでなく、自動車ローンなどの融資も含まれます。
仮に、年収500万円で住宅ローンの年間返済額が150万円、自動車ローンの年間返済額が30万円という人の場合、返済負担率は36%(=180万円÷500万円)です。
金融機関が定める返済負担率の上限は、銀行ごとに異なりますが、30~35%くらいに設定しているところが多いといわれます。
この場合、返済負担率が上限をオーバーしているため、審査に落ちる可能性が高いといえます。
もちろん、自動車ローン以外にも借り入れがある人は、その額も返済負担率の計算に含まなければなりません。
つまり、ほかに借り入れが多い人は、その分、住宅ローンで借り入れできる金額(借入可能額)が少なくなり、希望する額では審査に通らないことがあるのです。
ちなみに、返済負担率は25%以内にすると滞りなく返済できるといわれますので、借り入れ予定のある方は参考までに覚えておきましょう。
自動車ローンの有無による住宅ローンの借入可能額の違い
先ほど述べたように、自動車ローンを利用している方は、利用していない方と比べて、住宅ローンの借入可能額が減額されてしまいます。
では、住宅ローンの借入可能額はどれくらい減ってしまうのでしょうか。
ここで、いくつかのケースでシミュレーションしてみます。
なお、シミュレーションにあたり住宅ローンは以下の条件で借り入れるとします。
・返済期間:35年(元利均等返済、ボーナス返済なし)
・金利:年率1.72%(2023年8月現在のフラット35の金利)
【ケース1】年収400万円の住宅ローン借入可能額
年収400万円の人の住宅ローン借入可能額を、自動車ローンの毎月の返済額ごとに求めてみます。
なお、自動車ローンの返済額は、毎月「0円(利用していない)」「3万円」「5万円」のケースでシミュレーションします。
自動車ローンの毎月返済額 |
0円 |
3万円 |
5万円 |
住宅ローンの借入可能額 |
3,679万円 |
2,733万円 |
2,102万円 |
参考:フラット35「年収から借入可能額を計算」を用いて算出
https://www.flat35.com/simulation/simu_03_2.html
シミュレーションの結果を見ると、自動車ローンの返済が毎月3万円あると900万円以上、5万円だと1,500万円以上も住宅ローンの借入可能額が減ってしまう計算です。
【ケース2】年収700万円の住宅ローン借入可能額
上記と同様に、年収700万円のケースでシミュレーションしてみましょう。
自動車ローンの毎月返済額 |
0円 |
3万円 |
5万円 |
住宅ローンの借入可能額 |
6,439万円 |
5,492万円 |
4,862万円 |
参考:フラット35「年収から借入可能額を計算」を用いて算出
https://www.flat35.com/simulation/simu_03_2.html
この場合でも、自動車ローンの返済が毎月3万円だと900万円以上、5万円だと1,500万円以上も住宅ローンの借入可能額が減額されます。
自動車ローン以外の借り入れでも同じことがいえますから、住宅ローンの借入可能額を増やしたい場合は、何らかの対策を行う必要があります。
自動車ローンのある人が住宅ローンの借入可能額を増やすには?
すでに自動車ローンを利用している人が、住宅ローンの借入可能額を増やすにはどうすれば良いのでしょうか。
まず、考えたいのは「自動車ローンを完済してから住宅ローンに申し込む」という方法です。結局、ほかの借り入れがある限り住宅ローンの借入可能額は減ってしまいます。
ほかの借り入れを完済した後で住宅ローンに申し込めば、より多くの住宅ローンを借り入れしやすくなります。
「自動車ローンの返済計画を変更して毎月の返済額を減らす」という方法もありますが、自動車ローンの金利は住宅ローンよりも高いため、トータルの返済額が増えてしまいます。
もし金利が上昇すると、家計を圧迫して返済が滞るリスクが高まるでしょう。
ゆとりある返済計画を立てる上でも、金利の高い自動車ローンから完済させた方が安心です。
頭金を自動車ローンの返済に充てても良い?
住宅購入資金として頭金を用意している人は、これを自動車ローンの返済に当てるという方法も一手でしょう。
この場合、注意したいのが「頭金が少ないと住宅ローンの審査が厳しくなる」という点です。
一般的に、頭金は「住宅本体価格の1~2割くらい用意すれば良い」といわれます。
1割に満たなくても住宅ローンの借り入れはできますが、融資額が増えれば返済が滞るリスクも高まるため、金融機関の審査は厳しくなる傾向があるのです。
また、頭金が少ないと金利がアップする商品も多く、トータルの返済額が増えてしまう可能性もあります。
頭金を自動車ローンの返済に充てるか否かは、自動車ローンの金利とも比べて判断することが大切です。
複数のローンを組むときに覚えておきたいこと
自動車ローンの返済に加えて住宅ローンも返済するといった、複数のローンを同時に返済するときは、家計への負担を考慮することが重要です。
住宅ローンの返済期間は、30年前後の長期にわたります。
その間に、家計の支出が今より増えることもあるでしょう。
転職や病気などで、収入が減ることも想定されます。あるいは、金利が上昇して返済額が増えるかもしれません。
こうした家計や返済額に変化があっても毎月滞りなく返済できるよう、ほかのローンも含めて無理のない計画を立てることが大事です。
もし、返済計画に無理が生じそうであれば、借入予定のローンに優先順位を付ける必要があるでしょう。
「ローンを利用してでも、いま自動車が必要なのか」「ワンランク下の家しか買えなくても、満足の生活ができるか」など、将来を見越した上で投資先に優先順位をつけることも、ゆとりある返済計画を立てる上で大切なことです。
家と自動車が同時に必要なときは?
マイホームの購入と合わせて、自動車も新たに購入したい方もいらっしゃるでしょう。
この場合、貯蓄に余裕があれば、自動車は現金で購入するのも一手です。
同時期に複数のローンを組むと、住宅ローンの借入可能額が減ってしまい、理想の家を購入できない可能性があります。数年で買い替えができる自動車とは異なり、家は何十年と暮らし続けるものですから、借入可能額を減らさないよう努めたほうが賢明でしょう。
できれば、住宅ローン実行後に車の購入を検討しましょう。
住宅ローンには「住宅ローン控除」という減税措置がありますから、自動車を後回しにした方が家計に余裕が生まれやすくなります。
住宅ローン控除とは、年末時点のローン残高に応じて納めた税金が戻ってくる減税制度で、人によっては年間数十万円の還付が受けられることもあります。
この還付金を車の購入代金や自動車ローンに当てた方が、家も車も妥協せずに手に入れやすくなるでしょう。
車の購入時期をずらせるのであれば、先に住宅ローンを申し込み、それが実行されてから自動車の購入を検討されることをおすすめします。
すべてのローンをまとめることはできるのか?
一般的に、自動車ローンの金利は住宅ローンより高く設定されていることが多いです。
そのため、「自動車ローンを住宅ローンに組み込めないか」と思っている方も少なくないでしょう。
しかし、住宅ローンは家を購入するための融資であり、それ以外の目的で使うと契約違反になります。
つまり、自動車ローンを住宅ローンに組み込むことは、原則できないのです。
ただし、金融機関によっては「おまとめローン」という商品を提供しているところがあります。
おまとめローンとは、複数の借り入れを一本化できる融資商品のことです。
金利は金融機関によって異なりますが、一般的な自動車ローンと比べて低い傾向があるため、返済額を減らすことも期待できます。
なお、審査は非常に厳しいのが注意点です。
また、住宅ローンと自動車ローンを同じ金融機関から借り入れると、金利を優遇してくれるところもあります。
住宅ローンに組み込まなくても、トータルの返済額を減らせるため、家計にゆとりが生じるでしょう。詳しくは、金融機関の窓口に相談してみましょう。
まとめ
自動車ローンを利用している人でも、住宅ローンを利用して家を手に入れた方は、たくさんいらっしゃいます。
ただし、住宅ローンの借入可能額が減ってしまうため、何らかの妥協をされた方も多いようです。
理想のマイホームを手に入れたいのであれば、自動車ローンの完済後に住宅ローンを申し込んだほうが借入可能額を増やせますから、それを実現しやすくなるでしょう。
また、複数のローンを申し込む際には、家計の状況を見極めて検討することが大切です。
審査に通っても、返済が家計を圧迫して返済が行き詰まる人も少なからずいらっしゃいます。
住宅ローンも自動車ローンも、ゆとりある返済計画を立てられることが、ローンを利用する大前提なのです。