住宅ローンの審査では、「勤続年数」を求める金融機関が多く見られます。
一般的に、同じ会社に長く勤める人ほど審査に有利とされ、逆に転職したばかりの人や勤続年数の短い人は厳しくなるといわれます。
転職したばかりの人は、なぜ審査が不利になるのでしょうか。
転職が住宅ローン審査に与える影響や、転職後に融資を借り入れるメリット・デメリット、審査に通りやすくするためのポイントなどをまとめて解説します。
転職直後の人は住宅ローン審査に不利?
住宅ローンの審査項目は、金融機関によっても多少異なりますが、各行で共通しているものもあります。
その一つが、「勤続年数」です。
では、勤続年数について、どれくらいの金融機関が審査で重視しているのでしょうか。
それがわかるデータがあります。
国土交通省が、全国の金融機関を対象に実施したアンケート調査によると、「融資を行う際に考慮する項目」として「勤続年数」を挙げた金融機関は、全体の93.2%(※)という結果が出ています。
これは、年収(92.9%)や返済負担率(93.0%)などと並んで、ほとんどの金融機関が審査で重視しているといえるでしょう。
具体的な年数について、もっとも多かった回答が「1年以上(589行)」で、全体の半数以上を占め、次いで「3年以上(130行)」「2年以上(39行)」となっています。
これらのデータから、「転職して1年以内の人は住宅ローン審査で不利」といえるでしょう。
※参考:国土交通省「令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001597868.pdf
転職直後だと審査が不利になる理由
それでは、なぜ転職したばかりの人だと住宅ローンの審査が不利になるのでしょうか。
その理由として、金融機関では転職したばかりの人を「収入が不安定な人」と判断する傾向があるからです。
住宅ローンの審査項目に勤続年数があるのは、「収入の安定性」を確認するためです。
たとえば給与所得者なら、同じ会社に長く勤めている人ほど「安定した収入がある」と見られますし、自営業でも長く事業を続けている人ほど審査は有利に働くのです。
一方、転職したばかりの人や勤続年数の短い人は、年収が確定していない方もいらっしゃるでしょう。
また、転職を繰り返している人だと「すぐに離職する(=収入がなくなる)リスクの高い人」と金融機関は判断し、審査にマイナスの影響を与えることもあります。
こうした理由から、転職したばかりの人は「収入が不安定で、返済が滞る可能性が高い」と見なされ、住宅ローンの審査に通りにくいといわれるのです。
転職後に住宅ローンを申し込むメリットもある
転職後に住宅ローンを申し込むと、審査にマイナスの影響を与えることが多いです。
とはいえ、転職後に申し込んだ方がメリットの大きいケースもあります。
転職後に住宅ローンを申し込む場合のメリットについて、見ていきましょう。
家づくりにゆっくり向き合える
転職直前は、何かと慌ただしい状況が続きます。
そのなかで、土地を探したり施工会社と打ち合わせをしたりする時間を確保するのは、難しいかもしれません。
転職後であれば、こうした時間を確保しやすくなるでしょうから、ゆっくり家づくりに向き合えることがメリットといえます。
年収がアップすれば選べる物件が広がる
キャリアアップが目的の転職など、転職前よりも年収が増える方であれば、金融機関から借り入れできる融資の増額が見込めます。
融資額が増えれば、物件の選択肢が広がったりこだわりを実現しやすかったりと、ワンランク上の家づくりも期待できるでしょう。
ただし、転職して1年未満の方だと給与が上がっても融資額が減る可能性があります。
詳しくは後ほど説明します。
返済計画を立てやすい
逆に、転職で収入が減る見込みの方も、転職からしばらくした後に住宅ローンを申し込んだ方が返済計画を立てやすいです。
転職前の方が借入額は多くなるかもしれませんが、転職後に収入が減れば、返済が始まってから無理が生じて滞る可能性があります。
転職後、収入の見通しが立ってから住宅ローンを申し込んだ方が、無理のない返済プランを立てられ、返済が滞るリスクを避けられることもあるのです。
転職で給与が増えても借入額が減る場合もある
転職によって基本給がアップすることで、融資の増額を期待されている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、転職して1年未満の方だと、毎月の給与がアップしても借入額が減るケースがあります。
なぜなら、「正確な年収を把握できないから」です。
一般的に、住宅ローンの申込時には「源泉徴収票」など前年度の収入を示す書類の提出が求められます。
ただ、転職して1年未満の方は源泉徴収票が発行されません。
その代わりに、転職先の会社で想定される年収額を示す「年収見込証明書」という書類を発行してもらい、これをもとに金融機関では審査されることになります。
この年収見込証明書には、ボーナスなどの報酬は含みません。
つまり、実際にもらえる年収を証明する書類ではなく、基本給から想定される年収が示された書類なのです。
転職によって基本給が大幅にアップし、ボーナスなしでも前職の年収を超える方であれば借入可能額の増額を見込めますが、ボーナスの高い会社に転職する場合は転職前の方が融資を増やせるかもしれません。
転職直後の人が住宅ローンを利用する方法
転職のタイミングは、住宅ローンの融資実行後にした方が無難です。
では、すでに転職をしてしまった人の場合、どのような対応をすれば住宅ローン審査に通りやすくなるのでしょうか。
転職直後の人が検討したい対策を、いくつか紹介します。
金融機関の窓口で相談する
住宅ローンを申し込む際に、金融機関の担当者に転職した理由を伝えましょう。
その理由によっては、審査が有利に働く可能性はあります。
たとえば、スキルアップを目的に同じ業種・職種に転職した方であれば、前職の勤続年数を含めて審査してくる場合があります。
何も伝えなければ勤続年数だけで判断されますので、窓口で相談することも大切です。
なお、金融機関によっては勤続年数が短い人に「職歴書」の提出を求めるところがあります。
フラット35で申し込む
住宅ローンの中には、勤続年数を問わない商品もあります。
その代表例が、「フラット35」です。
フラット35は、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携した住宅ローンで、銀行を問わず独自の基準で審査されます。
その基準に勤続年数はありません。
年収は給与明細書から見込み年収を換算して確認することも可能で、勤続数ヵ月の人でも申し込めます。
ただし、見込み年収にはボーナスは含まれないため、借入可能額が少なくなる場合がある点には注意しましょう。
このほか、イオン銀行などのネット銀行には「勤続6ヵ月以上」といった、比較的に短い期間でも申し込める金融機関もあります。
勤続1年以上になるまで待つ
国土交通省がまとめた「民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、住宅ローンを扱う金融機関の半数以上が「勤続1年以上」を審査基準にしています。
1年待てば、住宅ローンの選択肢が広がりますから、家の購入時期を先送りするのも一手です。
先送りにすると、理想の物件を逃す可能性もあります。
ただ、審査に通らなければ元も子もありませんので、自己資金を蓄えるなど審査に通りやすくするための準備期間に当てるなど、ポジティブに考えることも大切です。
住宅ローン返済中に転職する場合の注意点
転職前に住宅ローンを契約した場合でも、転職後に手続きなどの点で対応が求められることがあります。
転職を予定している方は、以下の点を確認しておきましょう。
金融機関に転職先の情報を報告する
住宅ローンの申込時や契約時に届出した内容に変更があった場合、借り入れている金融機関に報告する必要があります。
これは、約款などに記載されている約束事です。
勤務先が変わった際にも報告が必要ですから、転職後に速やかに変更の届出をしましょう。
返済条件の変更を検討する
転職により収入が減る見込みの方は、これまでの返済プランでは滞るリスクが高まります。
収入の減少が想定されたら、金融機関の窓口で返済条件の相談をすることも大切なポイントです。
窓口で相談することにより、毎月の返済額を見直したり、低金利の住宅ローンに借り換えたりと、家計負担を抑える方法を一緒に考えてくれるでしょう。
返済が滞ってからでは遅いので、早目に相談することが大事です。
年またぎで転職する場合は確定申告が必要
住宅ローン控除の適用期間中に転職する方は、転職先でも年末調整で手続きをすることが可能です。
ただ、転職のタイミングが年末年始にかかる場合は、確定申告が必要になることがあります。
年末調整は、12月31日時点で在籍している従業員が対象です。
仮に、前職を11月に辞めて翌年1月に転職先へ入社された方は、年末調整の対象になりません。
そのため、住宅ローン控除を受けるには自ら確定申告をする必要があります。
このように、転職の時期によっては手続きが増えるケースもありますから、タイミングを計ることも大切です。
まとめ
転職したばかりの人でも、住宅ローンを利用して家を購入することは可能です。
実際に、転職後に住宅ローンを申し込んでマイホームを手に入れた方は、たくさんいらっしゃいます。
ただ、金融機関の審査が転職前よりも厳しくなるのは事実です。
場合によっては、借入可能額が減ってしまい、こだわりを叶えられない部分があるかもしれません。
逆に、転職によって基本給が大幅に増えるのであれば、転職後に申し込んだ方が融資額は増える可能性があります。
いずれにせよ、メリットとデメリットがありますので、それぞれを比べた上で、住宅ローンを契約するタイミングや転職のタイミングを検討することが大切です。