現在、賃貸住宅にお住まいの方のなかには、「このまま賃貸に住み続けるか」「それとも持ち家を購入するか」で、迷われている方もいらっしゃるでしょう。
持ち家を購入するには、多額の資金が必要です。
一方で賃貸だと、家賃の支払いが永久に続きます。
長い人生で考えた場合、どちらの方が「お得」なのでしょうか。
そこで今回は、それぞれ一生にかかる住居費をシミュレーションするとともに、賃貸・持ち家のメリットとデメリットについてもお伝えします。
賃貸に一生住む場合の住居費は?
賃貸に一生住む人のモデルケースとして、ここでは「30歳の世帯主が80歳になるまでの50年間の住居費」を求めることにします。
なお、家族構成は2歳の子どもが1人いる3人家族を想定。
住まいは、さいたま市に住み続けるものとします。
前提条件
賃貸は、子どもの成長や家族構成の変化に合わせて、容易に引っ越せることがメリットの一つです。
そこで、以下のタイミングで計4回の引っ越しをすることを想定します。
・【最初の引っ越し】世帯主30歳(子どもは2歳)
・【2回目の引っ越し】世帯主34歳(子どもが小学校に入学)
・【3回目の引っ越し】世帯主40歳(子どもが中学校に入学)
・【4回目の引っ越し】世帯主55歳(子どもが独立)
賃貸に住み続けるのにかかる費用項目
賃貸に住み続ける場合の費用項目には、以下の項目が挙げられます。
・家賃
・管理費
・礼金・敷金・仲介手数料(各1ヵ月)
・駐車場代
・更新費(家賃1ヵ月分)
・保険料
・引っ越し代
・原状回復費(ハウスクリーニング費用など)
家賃は間取りによって異なります。
シミュレーションでは、最初の引っ越しが2DK(家賃8.8万円)、2回目は2LDK(家賃10.4万円)、3回目は3LDK(家賃12.1万円)、4回目は2LDK(家賃10.4万円)の賃貸を移り住むことにします。
なお、家賃は大手不動産ポータルより「さいたま市の家賃相場」を利用し、50年間変わらないものとします。
また、管理費はいずれの物件も月額5,000円としましょう。
礼金・敷金・仲介手数料は、引っ越し回数と同じ4回必要です。
ここでは、それぞれ家賃1ヵ月分(計3ヵ月分)とします。また、更新費は2年に1度で、家賃1ヵ月分で試算します。
このほか、駐車場代として月1万円、保険料は火災保険の家財のみ、引っ越し代は4回分、退去時には原状回復費もシミュレーションに含めます。
参考:アットホーム「埼玉県の地域の家賃相場から賃貸マンションを探す」
https://www.athome.co.jp/chintai/mansion/souba/saitama/city/
賃貸に50年間住み続けたときの住居費をシミュレーション
上記の条件を踏まえて、賃貸に50年間住み続けたときの住居費は、以下の通りです。
・家賃:6,469万円
・管理費:300万円
・礼金・敷金:125万円
・駐車場代:600万円
・更新費:239万円
・保険料:35万円
・引っ越し代:40万円
・原状回復費:20万円
【合計】7,828万円
賃貸に50年間住み続けたときの住居費は、7,828万円になります。
持ち家に一生住む場合の住居費は?
賃貸と同じく、持ち家(戸建住宅)を購入して一生住むモデルケースでも、「30歳の世帯主が80歳になるまでの50年間の住居費」を求めてみます。
家族構成も賃貸と同じです(2歳の子どもが1人の3人家族)。
また、家を建てる場所も、さいたま市とします。
前提条件
持ち家を購入するには多額の資金が必要ですから、多くの方が住宅ローンを利用します。
そこで、購入時には35年の住宅ローンを利用するものとします。
また、住み始めてからは修繕やリフォーム費用もかかりますので、以下のタイミングで大きな費用がかかることを想定してシミュレーションします。
・【住宅購入時】4LDKの戸建住宅を、住宅ローン(35年契約)を利用して購入
・【小規模なリフォーム】入居から20年目に200万円のリフォームを実施
・【大規模なリフォーム】入居から30年目に500万円のリフォームを実施
持ち家に住み続けるのにかかる費用項目
持ち家を購入して住み続ける場合の費用項目には、以下の項目が挙げられます。
・物件価格(頭金は2割)
・住宅ローンの金利負担(住宅ローン減税は差し引く)
・購入時の諸費用(申込証拠金・手付金・仲介手数料・印紙税・登記費用など)
・税金(不動産取得税・固定資産税)
・保険料
・修繕費・リフォーム費用
大手不動産ポータルサイトによると、さいたま市の戸建住宅の相場は約4,300万円です。
この価格を、物件価格とします。
一般的に、持ち家を購入する際には、自己資金として「頭金」を準備します。
頭金は、物件価格の2割程度が目安とされますから、以下のシミュレーションでは「頭金800万円、住宅ローン3,500万円」で家を購入するものとします。
なお、利用する住宅ローンは、全期間固定金利型のフラット35。金利は年1.5%で計算します。
また、シミュレーションでは「住宅ローン控除(減税)」が適用されることも踏まえます。
仮に、省エネ基準適合住宅を建てた場合、最大控除額は364万円です(2022年現在)。
住宅ローン控除の額は、納税額や扶養家族の有無などの諸条件によって異なりますが、ここではトータルで300万円が控除されるものとしましょう。
このほか、諸費用として物件価格の5%程度、税金や保険料(火災保険・地震保険)、さらに、2回のリフォーム費用(計700万円)も踏まえて、50年間の住居費を求めます。
参考:アットホーム「埼玉県の地域の価格相場から一戸建てを探す」
https://www.athome.co.jp/kodate/souba/saitama/city/
持ち家に50年間住み続けたときの住居費をシミュレーション
上記の条件を踏まえて、持ち家を購入して50年間住み続けたときの住居費は、以下の通りです。
・物件価格:4,300万円(うち頭金800万円)
・住宅ローンの金利負担:1,000万円(住宅ローン減税:-300万円)
・購入時の諸費用:215万円
・税金:750万円
・保険料:120万円
・修繕費・リフォーム費用:700万円
【合計】6,785万円
参考:住宅保証機構「住宅ローンシミュレーション」
https://loan.mamoris.jp/
持ち家を購入して50年間住み続けたときの住居費は、約6,785万円になります。
賃貸の場合は約7,828万円でしたから、持ち家の方が約1,043万円もお得という結果になりました。
一般的に、賃貸の住居費にはオーナー(大家・管理会社など)のマージンが含まれるため、持ち家よりも高くなりやすいのです。
賃貸のメリット・デメリット
一生の住居費で比べると、持ち家の方に軍配が上がりますが、住まいを選ぶ基準はコストだけではありません。
賃貸または持ち家に住み続けるメリットとデメリットを比較し、総合的に判断することが大切です。
ここで、賃貸に住み続けるメリットとデメリットをお伝えします。
賃貸のメリット
■初期費用が安い
住み始めるときの初期費用を抑えられることが、賃貸を選ぶメリットの一つです。
敷金と礼金、不動産会社への仲介手数料などを合わせても、家賃の3~5ヵ月分で新居に移り住めます。
■住み替えが容易
家族構成やライフスタイルなどの変化に合わせて、転居しやすいこともメリットです。
子どもが成長して手狭になったり、独立して部屋が不要になったりしても、適した間取りの住まいへ容易に移り住めます。
転勤や進学はもちろん、収入の変化などにも合わせやすいことも賃貸ならではの特徴でしょう。
■ランニングコストを抑えられる
室内設備に不具合があったり故障したりした場合、その修理代はオーナー(大家・管理会社)負担になるのが通例です。
故意でなければ、入居者が負担することはありません。
地震や風水害で建物が損傷しても、修理代は原則オーナーが出します。
賃貸のデメリット
■入居条件・利用制限がある
賃貸は共同住宅ですから、入居に関してさまざまな条件が設けられています。
「ペット不可」「楽器禁止」といった物件もありますので、希望条件によっては選択肢が狭まることもあるでしょう。
■自分の資産にならない
退去時には、原状回復するのが賃貸のルールです。
壁紙を変えることはもちろん、釘1本を打っても修繕費用を請求されることがあります。
いくら家賃を払い続けても自分の家にはならないため、自由に変更ができないのです。
■老後に不安が残る
現役時代ならともかく、老後の年金生活になっても家賃の支払いが続くため、将来の生活に不安が残る方もいらっしゃるでしょう。
なお、老後になって転居したくても、入居を断られるケースが多いことも注意点です。
持ち家のメリット・デメリット
続いて、持ち家のメリットとデメリットを
持ち家のメリット
■自分の資産になる
住宅ローンを完済すれば、持ち家は完全に「自分のもの」になります。
リフォームも自由にできますし、建て替えることも可能。売却して、まとまった資金を得ることもできます。
■庭を自由に使える
家庭菜園やガーデニングなどを楽しめるのも、持ち家ならではのメリットです。
子どもやペットの遊び場もつくれるでしょう。
最近は賃貸にも庭付き物件が増えていますが、共有スペースのため自由に使えない物件が多いです。
■老後が安心
住宅ローンの完済後は、住居費の支払いを最小限に抑えられます。
家賃の支払いもありませんし、早く完済すれば老後の資金を蓄えることができ、安心して暮らせるでしょう。
持ち家のデメリット
■初期費用が高い
購入時に、まとまった資金が必要になるのが、持ち家のデメリットの一つです。
最近は、頭金なしでも借り入れできる「フリーローン」という融資もありますが、手付金などの諸費用は自己資金で用意する必要があります。
■メンテナンスは自分でしなければならない
設備の修理や買い替えといったメンテナンスは、すべて自分で行わなければなりません。
業者の手配も費用負担も、すべて自分で対応します。
災害などで住まいが大きく損傷した場合も、撤去費や建て替え
■住み替えしにくい
持ち家でも売却して転居することは可能ですが、容易に売れないのが注意点です。
特に、個性的な注文住宅は同じ嗜好の人が少ないこともあり、1年経っても売れないことも。
値下げをする場合、住宅ローンの残債を下回る価格だと売却できない点にも注意が必要です。
年代別に見る賃貸と持ち家のおすすめ度
「賃貸が良いか、持ち家が良いか」という選択は、年代によっても考えが異なるでしょう。
たとえば、進学や就職で新しい住まいが必要になる20代の場合、自己資金も限られますから賃貸の方が適しています。
生活環境も、20代は転勤や結婚など大きく変わりやすいため、落ち着くまでは賃貸の方が暮らしやすいでしょう。
30代の場合、結婚をして家族を持つようになれば、持ち家の検討を始めたいところです。
ただ、子どもの人数が決まっていない状況だと、必要な間取りも変わります。
将来の人生設計をしっかり考えた
40代になると、子どもの教育費や生活費などに加え、家賃や住宅ローンの返済ができるかがポイントになります。
住宅ローンの場合、返済期間が短くなるため、毎月の返済額が多くなり家計を圧迫する恐れもあります
「頭金を多めに準備して借入額を減らす」など、資金計画をしっかり考えましょう。
50代の方は、セカンドライフを見据えて住まいを考えることが大切です。
持ち家を購入すれば老後の安心感が得られるでしょうし、資産整理を目的に賃貸を選ぶのも一手でしょう。
いずれの場合も、歳を重ねると金融機関や管理会社の審査が厳しくなりますから、定年前に決めることをおすすめします。
まとめ
賃貸にも持ち家にも、それぞれメリット・デメリットがあるため、どちらが良いとは一概にいえません。
どちらが適しているかは、人それぞれの嗜好やライフスタイルによっても異なりますし、年齢によっても異なります。
「いずれはマイホームを買いたい」と考えている方なら、早く購入した方が住居費を抑えられます。
ただし、焦りは禁物です